今週読んだ本です。色々睡眠に関して読んできた中で題名の通り“人はなぜ眠るのか”ということに関しての現時点での最も正確な内容が書かれていました。一般的に「眠る」という言葉から連想される意味は、「機能していない」または「不動」という意味で使われます。とはいえ本来の睡眠は、無活動の状態や空白の時間を過ごしているのではなく、能動的でとても重要な生理機能が脳によって営まれる時間域になります。特に生き物は過去の体験が現状の状態に反映され、それがまた未来に影響を及ぼす、という時間の流れに縛られています。“生体の能動的な活動”は、“能動的な不活動”を要求するので、この因果関係のサイクルに睡眠は組み込まれているのです。つまり睡眠は活動停止の時間ではなく、高度の生理機能に支えられた積極的な適応行動であり、生体防御技術です。とりわけ発達した大脳をもつ高等動物にとっては、睡眠の適否が高次の情報処理能力を左右することになります。つまりは質の良い睡眠をとらない限り、質の高い生活が出来ないことになります。よりよく生きるためにより良く眠ることが大切なのです。更に良く眠れた後は非常に心地よい気分になります。これは本能の基本行動が達成されたときにおこるによるフィードバック現象です。本能行動は生体にとって極めて重要でありながら、同時にまた大変危険な行為を伴います。食欲という行動は満たされれば快感が得られます。ですがその行動を満たすためには様々な危険が待ち構えています。木の実を得るにもリスクゼロではなく、外的に襲われたり万が一の事故に遭遇する危険をはらんでしますし、狩りに至っては万が一命を落とす可能性があります。睡眠も同じで、目覚めの快楽を得るためには、特に古代の時代では、良く眠れるような安全な場所の確保が必須で、そのような危険を冒してでも本能行動を得ようとする睡眠は、食欲と同じく生命を維持するよう生体にプログラムされているのです。
また、睡眠はその調節のために二つの基本的なメカニズムが存在します。一つはほぼ1日を単位とするリズム現象であり、脳内に存在する生物時計に管理されていることです。これを睡眠調節のサーカディアンリズム機構といいます。もう一つは寝る直前までにどれだけ睡眠が不足しているか(どれだけ起きていたか)によって、眠りの質と量が自動的に決められるというものです。これを睡眠調節のホメオスタシス(恒常性維持)機構と呼びます。この二つの機構はそれぞれ協調しており、互いに補完する関係ですが、進化の過程で別々に獲得したものであると考えられています。それ故、それぞれ独立に作用をあらわすことができ、後者の機構のほうがより新しい高度の技術であり、より適応性に富んでいると考えられています。忙しい現代では、私たちは正確で規則正しい生活がいつもできるとは限りませんから、毎日同じパターンや状態で眠れるとは限りませんし、それ故サーカディアン機構を無視する傾向があります。もし睡眠調節機構が単一なものなら、サーカディアンリズムを無視する行動が睡眠に影響を及ぼし、良く眠れずひいては翌日の生活にも影響が出てくるでしょう。そこで、もう一つの機構がこのリズム無視を補完し睡眠の質と量を調節して正常な睡眠状態を作ることで私たちは毎晩心地よく眠れ、翌朝心地よく目覚めることができるのです。
また、1日の疲れは身体的なものと精神的なものがあります。身体的なものは安静にしていれば回復しますが、精神的な疲労はつまりは大脳の疲労の為、まさに睡眠でしがその疲れを取ることができません。日中の興奮、不安、ストレスなど1日の生活で大脳は多量のエネルギーを消費しますので、過熱状態のニューロンを休めるために睡眠が必要になります。更に睡眠中に分泌される様々なホルモンが身体的な成長、修復を行い、ニューロンのネットワークに修飾を加え相互作用により睡眠を引き起こします。このように生体は脳内ニューロン活動による神経機構と睡眠物質に基づく液性機構をも用いて、何としてでも睡眠を取ろとします。それはつまりは睡眠は無くてはならない物の証明の裏返しです。
このように睡眠は本能行動であり、そして現代の発達した大脳を休め、能力をフルに発揮するための高度の生存戦略として進化してきました。睡眠時間は人それぞれ、同じ人でもその日その日によって異なる為、まずは睡眠に関する正確な知識が必要です。健康志向により様々な熟睡、快眠、すっきりした目覚めなどのマニュアルが出ていますが、鵜呑みにする行為は大変危険です。ただ一方で睡眠の本質を心得たうえでの快眠探究なら多くのヒントが得られるのも事実です。
2014年07月04日
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